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zoom RSS 東電OL殺人事件

<<   作成日時 : 2012/11/08 23:59   >>

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 東電OL殺人事件で犯人とされたネパール人、ゴビンダ・マイナリ氏の無罪が確定した。再審開始決定と同時に刑の執行が停止され、本人がネパールに帰国し、再審では東京高検が無罪陳述まで行っているのだから、無罪は決まっていたようなものだ。だが、無罪判決が確定して改めて、日本の司法制度のひどさ、いい加減さに思いが及んだ。無実の人物を十何年も拘束し、服役させた、そのことだけにとどまらない。同じことは、誰の身にも、私の身にもあなたの身にも、起こりうることなのである。

画像 この夏、佐野真一氏が書いた「東電OL殺人事件」のルポ本2部作を、ネット古書店で取り寄せてまとめて読んだ。よくも、この程度のずさんな証拠といい加減な捜査で、ゴビンダを17年も拘束したなぁ・・・というのが、最初の感想である。どう転んでも、無罪にしかなり得ない事件。それを、この国の司法制度は有罪とし、無期懲役の刑を与えた。

 本書は、被害女性と被告となったゴビンダ氏の身辺、経歴を取材した部分と、1審・2審合わせて40数回に及ぶ公判廷を丹念に傍聴した裁判記録の2つの要素からなる。単行本(後に文庫本)化されているが、原著は月刊誌「新潮45」に不定期に連載されたルポ記事だ。著者はゴビンダ氏の自宅周辺や勤務先のレストラン、さらにゴビンダの同居人を祖国ネパールまで追いかけて取材し、かなり早い段階で「ゴビンダ=無罪」の心象を固め、それを連載で報告している。一審は検察の主張の多くを退けて著者の心象どおりの無罪判決を下したが、二審は逆転有罪で無期懲役の判決。最高裁も二審の判決を支持してゴビンダは服役、再審が認められて刑が執行停止されるまで、逮捕から数えて17年の時間を要したことは、報道されている通りだ。

 本書で開示されている取材結果を読む限り、ゴビンダはどう考えてもシロだ。大幅に割り引いて見るにしても、シロにちかい灰色だ。これをクロにするのは、魚を鳥だと言い張るくらいに無理筋の理屈だ。被告による犯行と断定するには、明らかに「合理的な疑い」が残る。「疑わしきは被告人の利益」(=疑わしきは罰せず)の鉄則からすれば、無罪以外の判決はあり得ない事案である。

 たとえば、犯行現場の渋谷のアパートと、被告の勤務先だった幕張のレストランの距離からすれば、犯行時刻に被告が現場に居合わせることは、ほぼ不可能だ。しかも、被告は事件発生から8日間も犯行現場のすぐそばで暮らし、何一つ変わることなく寝起きし仕事に行っている。また、被害者の定期入れが、被害者も被告も土地勘の無い巣鴨の民家庭先で見つかり、その定期入れからは被告の指紋は見つかっていない。さらに事件当時、被告が現場の部屋の鍵を持っていたというネパール人の同居人の証言は、警察がでっち上げたものだった。ネパールまで追いかけた著者の取材に対し同居人は、「あれは警察に強要されたウソだった」と証言し、宣誓付の供述書まで作成している。これだけの疑問や違法捜査があるにもかかわらず、二審と上告審は検察のほころびだらけの筋書きをそっくり追認し、論告をそっくりなぞったような判決を言い渡しているのである。

 確かに、ゴビンダは悪いヤツだった。定期券のキセル乗車で職場に通い、同居人仲間からは家賃をピンハネし、カネに窮すれば誰彼と無く借金を頼み(ちゃんと返したか否かは本書では書かれていない)、故郷に妻子がいるにもかかわらず、小金が溜まればあちこちで買春を繰り返していた。(ネパールでは婚外交渉、日本よりはるかに道徳上の罪が重い) こういう素行から、ゴビンダを「出稼ぎにきた善良なネパール人青年」に見立て、その彼を「救おう」という支援者団体について、著者は厳しい視線を向けている。しかし、だからと言って、ゴビンダが素行不良外人であるから殺人犯だ、というのは論理の甚だしい飛躍だと著者は述べている。私もそう思う。キセルだのピンハネだの借金だの買春だの、その程度のことは「チョイワル」なヤツなら誰でもやることであり、そうした素行と強盗殺人という凶悪犯罪の間には雲泥の差がある。

 一方で、殺害された東京電力勤務の女性(当時39歳=本書では実名)も、相当なワルだった。本書によれば女性は、夕方東電の勤務時間が終わると毎日渋谷の路地に立って買春客とセックスし、必ず終電で帰宅していた。それだけではなく、土日は五反田のデートクラブに「出勤」して売春、夜には同じく渋谷の路地に立った。1日4人の客とセックスすることを日課としていたという。ぶっ壊れていたとした言いようがない。売春しか収入の手段がないという女性がいたとしても、そこまでのハードワークは、マトモな頭をしていれば到底ムリだろう。それができたということは、(敢えてこういう言い方をさせていただくが)キチガイである。アタマがおかしかったのである。本書で著者は、ゴビンダのチョイワルを「小堕落」、被害女性のキチガイぶりを「大堕落」と繰り返し表現している。

 出稼ぎ労働者くずれの不良外国人とキチガイOLの起こした事件・・・そういう偏見で事件を見たときに、冤罪防止を第一に精密な捜査をしようとするモチベーションはどこかにふっとんでしまったのではないかと、私は思う。メディアがセンセーショナルに報じ、世間の注目度が高い事件である。犯人を逮捕したと言う華々しい手柄を、警察は欲した。ついでに、不法残留で日本に潜む不良外人たちへの一罰百戒を狙いたかった。ゴビンダ逮捕の背後には、そういう意図があったのではないか。要は、こんな悪いヤツはとっとと塀の内へ落としてしまえ、ということである。無罪判決を出しづらい、「法律と良心のみに従って独立して職権を行使する」とはとても言えない、いびつな官僚機構を持つ脆弱な裁判官制度が、その偏見を後押しした。著者が綿密な取材で解きほぐした事件の全体像を私なりにまとめると、こういうことになる。

 再審無罪となる冤罪事件が明らかになるたびに、日本の司法制度の抱える闇が多くの人によって語られるが、この東電OL殺人冤罪事件も、それらと完全な相似形を為す。でたらめな捜査、自分たちの作った筋書きにあてはめようとする検察官、それを追認する裁判所。

 くどいが、これは誰の身にも、私の身にも、あなたの身にも、起こり得ることなのである。

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