「空へ~救いの翼」・・・宣伝映画にとやかう言うのは野暮というものだが

画像 前々から気になっていた映画「空へ~救いの翼-Rescue Wings-」を、ようやくDVDで見た。

 航空自衛隊のレスキュー部隊「航空救難団」を舞台にした航空アクション映画。「海猿」の自衛隊版みたいな映画です、簡単に言えば。

 やぁぁぁぁー、スゴイ映画だった。何がスゴイって? 自衛隊の撮影協力。主役のヘリコプターSH-60Jに始まり、出てくる、出てくる、U-125A(救難捜索機)、V-107A(救難ヘリ)、F-15J(戦闘機)、T-4 (練習機)、そして海自のSH-60K(哨戒ヘリ)、さらには護衛艦「はるさめ」まで、すべて実機。さながら、自衛隊装備のカタログ。これらの映像がまた、カッコイイんだ。空撮あり、操縦席からの主観ショットあり、計器のアップあり、滑走路からの「あり得ないアングル」からのショットあり、と。基地付近に外国旅客機が飛来することすら嫌がる秘密主義の自衛隊が、一体どうしたの? と嫌みの一つも言いたくなる。自衛隊の航空機・艦船をあれほどカッコよく撮影した映画、ちょっと見たことないです。アメリカ映画? トップガンか? と思えるくらい。自衛隊協力の映画は「亡国のイージス」とかいくつか見たが、映像に関しては出色の出来だ。

 操縦・操艦しているのは、当然空自・海自の現役パイロット・乗組員たち。撮影クルーを乗せて併走するヘリなんかも、すべて自衛隊機が使われているのだろう。燃料代も当然、広報とか訓練展示の名目で、自衛隊が負担しているはず。さらに、基地内のシーンなど主要部分はすべて実際の基地でのロケ。スナックで飲んで盛り上がるシーンまで、セットではなくロケ。スタジオ不要、セット不要、特機代(航空機など)はほとんどタダとなれば、映像で展開される物量に比べて制作費はものすごく安く済んでいるのではないだろうか。

 自衛隊が本気で協力すれば、これだけのモノが撮れてしまうんだ、というのが一つの感想。アメリカでも、軍が登場する映画には陸海空軍や海兵隊が全面協力するのはお決まりで、軍のイメージアップには相当貢献しているが、同じことを日本の自衛隊もやり始めているのだな、と思う。あれ見て航空救難団に憧れる少年少女、少なくないと思うよ、マジで。

 航空ファン、自衛隊マニアにはたまらない映画だけど・・・それだけです。ストーリーは平板で直線的、何のひねりも無い。主要キャスト(三浦友和、木村佳乃は別にして)の演技もイマイチ。「物量」と「映像の迫力」以外には、まったく見どころのない、自衛隊の「宣伝映画」だ。ま、それを言っちゃ「ハッピーフライト」はANA、「海猿」は海上保安庁の宣伝映画ではあるのだけど、ヘリが墜落するわけでもない、隊員が死ぬわけでもない(いちおうF-15は墜落するらしいが)、要するに協力する側のイメージダウンになるような要素が一切排除されているところに、「ハッピーフライト」や「海猿」よりも宣伝臭の強さを感じてしまう。ついに自衛隊も、映画を使って隊員募集をやるようになったわけだ。アメリカでも、米海軍兵学校に入学する学生の大半が、「トップガン」の影響でパイロットを志望しているという話があるくらいで、映画というのは使いようによっては、それだけイメージ戦略に貢献するツールとなり得る。日本の防衛省もようやくそれに気づき、この10年ほど、映画の撮影協力は随分熱心にやるようになったが、本作ではその狙いが、一段と露骨に見えるようになったな、と感じた。

■自衛隊は何であんなに高性能なヘリを持っているんでしょうね・・・
 映画の中の「航空救難団」は、消防や海上保安庁の能力では対処不可能な困難な災害救助に向かう部隊、「最後の砦」として描かれている。暴風雨下での船員救助とか、遠隔地からの救急搬送とか。それはそれとして事実だし、実際、災害救助で自衛隊の力が頼りにされることも少なくない。けれども、そういう格好良いシーンを見ながら、「軍事組織」としての側面からすれば、自衛隊にとって人命救助なんて二の次のはずなんだよな、とついつい考えてしまった。

 思い出したのは、「自衛隊は何であんなに高性能なヘリを持っているんでしょうね・・・」と言っていた海上保安庁の救助隊員の言葉だ。海保の救難員は潜水士として訓練を受けているし、水難救助にかけては日本一だという自負を持っている。パイロットにしても、海の上を飛ぶことに関しては誰にも負けないくらいの自信を持っている(ヘリパイロットにとって、海を飛ぶのと山を飛ぶのは、必要とされる技術がまったく違うのだそうだ) けれども、装備のレベル、特にヘリの性能においては自衛隊の方がはるかに上だ。エンジンパワー、航続距離、搭載能力、何をとっても海保のヘリは歯が立たないという。こういう性能の違いは、悪天候など困難な状況での運用能力の差になって現れてしまう。海保が「救助不能」として撤退せざるを得ない局面で自衛隊が出て来て救助ミッションを敢行、ということが時々ある(たとえば、2004年11月に石狩湾で起きた、貨物船マリンオーサカの座礁事故など)のだが、こういう場合に海保の隊員は、「救助技術では自分たちが上なのに、ヘリの性能差で負けた」という悔しい思いを抱えてしまうのだという。「何で自衛隊は・・・」という言葉は、海上保安官たちの正直な気持ちを吐露していると思う。(ついでに言えば、海保と自衛隊、特に海保と海自は、戦後機雷の掃海など海軍の後始末を海保がやらされたという歴史的経緯もあり、非常に仲が悪い)

 海保と自衛隊の装備の差。それは、自衛隊航空救難団の役割を考えると、おのずと答えが出てくると思う。映画にも出てくるが、航空救難団の本来の本務はあくまで、事故あるいは撃墜で墜落した戦闘機パイロットの救助だ。海難救助や救急搬送は、その合間に、それも都道府県知事の災害派遣要請があった場合で本務に支障の無い限り、ある意味片手間でやっているに過ぎない。

 戦闘機のパイロットは、日本の領土主権を守るという使命を帯び、厳しい条件の中から選抜された上に何億円もかけて要請された、自衛隊の「ベストガイ」(こういうタイトルの映画もあった)たちだ。パイロットを1人失えば、それは即、戦力の低下、防衛力の低下につながってしまう。だからこそ、墜落・海上漂流という事態にすみやかに救助できるよう、手厚い救難体制と高性能なヘリなどの装備が与えられている。それは、人命救助という理念よりはむしろ、戦力の維持という国防上の実益が主たる理由だ。隊員たちの人命に対する思いとはまったく別次元の数値的ベネフィット(*注)から編成・運用されているのが、自衛隊の航空救難団である。要は、自衛隊と海上保安庁(ならびに警察・消防など)では、救う命の「値段」が違うのである。民間人の命が失われても国に損害はないが、戦闘機パイロットを失えば国防の根幹が揺らぐというわけだ。

*注 たとえば、日本領空で航空自衛隊の戦闘機が外国機に撃墜されるような事態が発生した場合、被撃墜機のパイロットが持つ情報(敵機の国籍、戦闘能力)は、何十億円かけても回収する軍事上の価値がある。また、生還したパイロットを国民向けプロパガンダに利用したり、国際政治の舞台で相手国を非難するカードとして利用できる効用を考えれば、パイロット1人の命には、計り知れない国益上の価値があると言える。自衛隊が手本とする米軍は第二次大戦中から手厚い救難救助体制を持っていたが、人命重視と言うよりも戦略的、国益的観点からだった。

 映画がテーマとしている、「航空救難団は人命救助の最後の砦」なんて、私に言わせりゃ、大ウソだ。もちろん、最前線の隊員たちの人命への思いを疑うつもりはまったくないし、実際の隊員一人一人はそういう思いを強く持って活動していることもよく知っている。けれども、それが映画化され、純粋な人命救助とはちょっと異質なところにある軍事組織の本質が一切合切包み隠されてしてしまうと、何とも言えぬ偽善さ、宣伝臭的なものを、私は感じてしまうのだ。「戦闘機乗りは国を背負うが、レスキューは人命を背負う」みたいなセリフが出てくるが、ありゃりゃ、映画でそこまで言わせるか、と思った。本物の隊員が言うなら説得力があるのだが、防衛省協力の映画として脚本化され、役者が言わされていると、どうにもウソくさく聞こえてしまうのだ。自衛隊員である彼らが一様に背負わされるのは、人命ではなく、「国」ではなかっただろうか、と突っ込みたくもなる。

 もちろん、この世の中、「自衛隊は国のプライドを守る戦闘集団です」とするよりは、「人命救助のスペシャリストです」とするほうが国民受けが良いし、人気が出るだろうというのはよくわかる。防衛省が協力する狙いはまさにそこで、人気が出れば隊員の士気も上がるし、予算も通りやすくなるだろう。最近は米軍ですら、民生支援的な部分を強くPRするようになった。まぁ宣伝映画なんだから、とやかく言えば言うほど野暮なんだけど、あまりにも意図が見え透いていて、この映画の自衛隊の描き方・・・はっきり言って、気に入らない。 





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この記事へのコメント

山猿
2011年10月06日 23:47
海猿は更なる大嘘。恥の上塗りかな。
航空自衛隊救難隊の歴史や救難員の犠牲者をご存じだろうか。

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