片道800円!・・・JALの恐るべきダンビング営業「キックバック」の実態

 たとえば、北海道発で九州をめぐる団体旅行商品で、3泊4日=5万円という格安ツアーがあったとしよう。(こういうツアーは実際に、いくらでもある) このうち、北海道~九州の航空運賃は5万円のうちのいくらくらいか、想像できるだろうか。

 宿泊代1泊2食は、2人1部屋で1人5000円、3泊で1万5000円。貸切バスと観光入場料・昼食代で1人1万円、旅行会社の利益が1割の5000円だとすると、航空運賃(エア代)は1人往復2万円、片道1万円か・・・。多少の旅行経験と常識的な金銭感覚がある人なら、これくらいの計算はすぐにできるだろう。そして、「団体割引とは言え片道1万円なんて、とんでもない安売りだ」とか、「1人あたりの利益がたった5000円だなんて、100人集めても50万、1000人集めてようやく500万。こんな薄利多売で、会社を維持できるのだろうか」などと、いろいろな疑問が生まれる。私も、その1人だった。

 ところが、これは完全な誤解だった。JALに関する限り、実際の航空運賃は片道1万円よりもはるかに安く、旅行会社がしっかりと儲かるようになっていたのだ。

 森功著「腐った翼~JAL消滅への60年」に、このカラクリが生々しく解説されている。カラクリのキモは、「キックバック」と呼ばれる、旅行会社とJALの特有の商習慣だ。「キックバック」とは、旅行会社からの売上に対し一定の割合を航空会社が払い戻す、一種の割引制度。たとえば、片道1万円で1000人利用、キックバック率10%ならば、100万円が旅行会社に払い戻され、実質運賃は一人9000円となる。もっとも、このキックバックや類似の制度自体は、航空会社だけではなくホテルでも貸し切りバス会社でも観光施設でも、旅行会社手配で団体客が利用する施設(業界用語で「送客先」などと呼ばれる)ならたいていはあり、JALに特有なわけではない。特有なのは、キックバック率の異常な高さだ。

 前掲書によれば、JALが経営危機に直面していた2009年下半期、東京~北海道東部(釧路・帯広・女満別)の団体割引航空券では、適用運賃(旅行会社に対する卸値)片道9900円に対し、8100円ものキックバックが行われていたというのだ。さらに、このチケットは空弁(空港で旅行参加者に配る弁当)代金もJALが負担する約束のため、弁当代を差し引くと1人あたり800円程度の実入りしかなかったのだという(270p)。また、函館や札幌便では卸値1万1000円に対し7100円のキックバック(これも空弁付き)。このほかの路線でも、50%を超えるキックバックが当たり前のように行われていたのだという(271p)。こうした異常に高いキックバックは、「メディア系」と呼ばれる旅行会社が対象で、団体客なら誰彼構わずこういう野放図な割引が行われていたわけではなさそうだ。「メディア系旅行会社」とは、新聞広告やテレビの旅番組を通して大々的に告知し、添乗員付きの団体格安ツアーの販売を得意とする旅行代理店のことで、阪急交通社などがその代表格である。大量に集客できる代わりに、一人あたりの利益率は低い。「北海道発九州3泊4日=5万円」のような格安ツアーがどうして成り立つのか、告知に必要な巨額の広告費をどう捻出しているのか、不思議でならなかった。が、同書にあるように団体航空運賃が50%以上もキックバックされているとすれば、旅行会社の利益率はぐっと上がる。格安ツアーのカラクリとして、納得行く話ではある。JALから旅行会社に払い戻される金額は、半期で400~500億円にもなったと、同書は指摘する。

 驚き、呆れ、空いた口が塞がらなかった。JALの平均搭乗率は60%弱だが、その裏で、団体客向けに、こういう法外なダンピングが行われていたのだ。そもそも、正規運賃からすればべらぼうに安い団体航空券に対し、50~80%もキックバックを行えば、タダで乗せているのと変わらないことになる。「それでも、空席で飛ばすよりはマシ」という考え方もあろうが、タダ同然で席を埋めて搭乗率を上げるなんて、搭乗率偽装である。タダなら客が乗るのは当たり前で、高率キックバックは航空会社にとって麻薬そのものだ。JALは、見かけ上そこそこの搭乗率を保っているようにしておいて、裏で旅行会社に大半をキックバックするという、会社をシャブ漬けにする営業手法を取っていたのだ

 前掲書が指摘する途方もない高率キックバックは、 「日本航空の販売施策の現状」と題する内部資料が根拠となっている。今年1月下旬から、永田町やマスコミ関係者の間に出回ったA4版の文書で、出所は不明だ。JAL広報は、文書の内容も存在自体も完全否定している。JALが裏で火消しに走ったためか、メディアは「JALたたきのための怪文書」という見方が支配的で、高率キックバックの存在がクローズアップされることはなかったようだ。が、著者は別の取材結果も加味して、こうも述べている。「(JALに投入された)税金は借金返済のためとなっているが、この時期の資金需要には、KB(キックバック)の支払いも含まれている」(273p)。私は、高率キックバックの存在は事実だと思う。そうでなければ、あの激安ツアーのカラクリの説明がつかない。JALは、2009年度4-12月の9か月で、1800億円というとんでもない大赤字を出したが、年間で1000億円もの「シャブ」を旅行会社にばらまいていたら、金はいくらあっても足りるものではない。まして、その「シャブ」に多額の税金が使われているとすれば、国民は納得するはずがない。

 当然だが、団体ツアーでのキックバックは、国際線でも行われている。二月ほど前、JALが「搭乗率の高いホノルル線で思うように利益が上がらない」と嘆いていることにふれ、「連日満席でも搭乗率が上がらないとは、どういうコスト構造をしているのだ」と書いた。日本人に最も人気のあるハワイで、連日満席なのに収益が上がらないのなら、国際線など撤退すれば良いとも書いた。けれどもそれは、Yクラス往復8万円程度の「真っ当な運賃」(それでも安いと思う人はいるだろうが)をいただいていたら、の話だ。そこから50%以上も旅行会社にキックバックされ、そういう客がYクラスの多くを占めるのだとしたら、収益など上がるわけがないだろう。

 JALが健全経営を取り戻すためには、高率キックバックという異常な営業を、即刻やめることである。それによって、メディア系旅行会社のツアー料金が上がったり、搭乗率が下がったりはするだろうが、シャブに浸りきった体を元に戻すためには、それくらいの覚悟が必要だ。「シャブ抜き」は、そう簡単ではない。

【追記】
 新聞広告で、破格の格安国内パッケージツアーが相変わらず出回っている(最近はJTBもこのジャンルに熱心だ)ところを見ると、JALは相変わらず、キックバック垂れ流しで「搭乗率偽装」をやっているのでは、と思われる。公的資金投入と借金の棒引きで好転した資金事情が、こういう「シャブ」に使われている可能性は十分にある。このへんの裏事情を、メディアは徹底追及すべきではないか。(10月29日)





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この記事へのコメント

マスコミ嫌い
2011年02月05日 22:34
これ、JALをおとしめる文書ですよ(^_^;
ANAが使う専門用語で文書が記載されているようです。
ANAが流したとのうわさがありますが、定かではありません。しかしANAの仕業の可能性大です

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