ある日(日記帳によれば1995年4月12日)、この原発を運用する電力会社が、事故に備えたシミュレーションをやるというので、出かけたことがある。ニュースライティングの授業の一環だった。シミュレーションの内容は、有事にメディアをコントロールする電力会社側のトレーニングで、学生たちは記者会見場に集められて記者役となり、電力会社の広報官が定期的なブリーフィングを行って随時状況を説明する。状況説明のための簡単なペーパーが配られ、記者役の学生が自由に質問する。「記者」たちはその様子を新聞用のフォーマットにしたニュース原稿にまとめ、翌日課題として提出する。当時は、原発の仕組みやら危険性やらにまったく知識がなかったから、細かい想定内容は忘れてしまったが、原子炉で放射能漏出の重大事象が発生し、最後は快方に向かうという筋書きだったと思う。
午後5時から始まったシュミレーションは9時過ぎまで続き、会見室内には記者用の無料電話や軽食まで用意されていた。写真を撮っておかなかったのが非常に残念だが、アメリカの大企業のサービスの良さ、言い換えればメディア対策の徹底ぶりがとても印象に残った。電力会社では、こうしたシミュレーションを定期的に行っているとのことで、地元テレビ局で一社だけだが取材に来ているところがあったから、それなりの関心度なのだろうと思った。
今でも思い出すのは、有事に備えた対処方法、記者が詰め掛けた時にどうやってコントロールするか、会社側が常に訓練を繰り返しているということだ。「想定外」を繰り返す我が国とは、心構え、気持ちの持ち様がまるで違っていたな、と思う。
上空から見たスリーマイル原子力発電所
白煙を上げるスリーマイル原子力発電所。冷却塔の水蒸気から出る白煙は、欧米の原子力発電所の特徴の一つだ。内陸に立地しているため、原子炉の冷却に使われた温排水を直接放流せず、冷却塔を使って空気で冷やすため、このような水蒸気が出る。日本の原発は、海岸線に立地して温排水を直接海に放流するため、冷却塔がない。コスト面で有利だが、海岸線に建てること自体が津波に対して非常に脆弱であることは、福島原発でいやと言うほど証明された。(写真は1998年12月、ニューヨーク~ワシントンの定期航空便の機窓から撮影。スリーマイル島はニューヨーク・ワシントンのほぼ中間点のやや内陸に位置しており、天気が良ければ巡航中の旅客機からはっきりと見える)
Ocean Radio@2011
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