またもや運転手バッシング・・・危険な道路交通を放置してきた責任は国民全体にある

画像 関越自動車道で29日未明に起きた7人死亡のバス事故について、「居眠りをしていた」とされる43歳の運転手の実名が報じられ、「群馬県警はけがの回復を待って逮捕する方針」(共同通信)などと伝えている。テレビは例によって、「居眠りなんかで家族が殺され許せない」というような遺族のインタビューを、放送している。何度も何度も目にして来た事件事故報道の定型パターンがまたしても繰り返され、運転手バッシングの雰囲気が醸成されつつある。

 おそらくこの運転手は、危険運転致死罪で起訴され、「7人死亡という結果の重大性を鑑みて」実刑判決となるだろう。

 愛する家族を突然失われ、悲しみと憤りをどこかにぶちまけたい気持ちは、よくわかる。けれども、これは事故であり、故意犯とは違う。事故なら、そこに至る可能性の芽はいたるところに潜んでいると見るべきである。関係者の処罰と同等かそれ以上に、原因の徹底糾明と再発防止の対策が重要なのではないだろうか。犯罪捜査(過失を含む)と原因究明は、相容れない場合が時としてある。どちらが私たちの社会にとってより重要なのか、ここはしっかりと考えるべきだ。

 もちろん、大勢の客を乗せてバスを走らせながら居眠り運転とは言語道断ではある。が、時間帯は午前4時半すぎ。徹夜運転による疲労がピークに達し、どんなに体調を整えた運転手であっても、居眠りの可能性はあるのだ。そうなったとき、致命的な事故を防止するバックアップがまったくない。これは、道路という交通システムの欠陥と危険性を露呈させた事案としてとらえるべきではないかと、私は思う。

 前にも書いたように、バス・トラックなどの道路交通システムは、鉄道や航空機に比べてはるかに安全性が低く、危険な乗り物である。なぜなら、運転手は一人しかおらず、その運転手が居眠りや病気などで意識不明になると、たちまち走る凶器と化してしまうからだ。航空機にはパイロットが必ず2人以上(自家用や小型チャーター機を除く)いて互いを監視しているし、飛行のほとんどは自動操縦である。鉄道は、地下鉄など一部を除いて手動による操縦だが、特急は2時間強で運転士が交替するし、居眠りや信号を見逃した場合などの自動停止装置がある。自動車にも、これに類する運転支援装置を装備することは今の技術なら十分に可能なのだが、そういう方向の議論はなぜかほとんど聞いたことがない。

 高速道、一般道を問わず、大型車の事故で何人もの犠牲者が出ることは1~2年に1回必ずあるが、アダプティブクルーズコントロール(ACC)や車線逸脱警報装置などが装備されていれば、その多くは防げたか、大幅に被害を軽減できた事故ではないだろうか。7人もの尊い犠牲を出してしまった今回の事故こそ、そういうことを考える契機とすべきで、運転手本人やバス会社の責任追及(それはそれで必要だが)や、格安競争にあけくれる旅行業界事情をクローズアップするだけでは、根本的な再発防止にはならないと思う。

 居眠りや意識不明は誰にでも起きる。そうなったときに致命的な事態を招かないようにするシステム整備こそが、真の再発防止対策である。【つづく






Ocean Radio@2012



この記事へのコメント

皮算用
2012年04月30日 09:44
●休息時間について
大昔の話ですが、紅組の逆噴射事故では、前日遅くに福岡入り、翌日早くに羽田で事故・・・と、記憶しています。
航空業界は時差のある地区に乗り入れること、現在も2名運航で12時間程度の飛行があることを考慮すると、航空業界とバス業界の休息時間は、大きな差が無いような気がします。今回の主因が居眠り出ることを考慮すると、休息時間が適正であったのか、運転者当人が十分に休息をとる努力をしていたのかが、論点になると思います。
旅デジ様は航空業界の内情にもお詳しそうなので、この点についてご教示いただければ幸いです。

●道路構造物について
道路構造物の管理者の業界では、自動車死亡事故で、多くの割合で道路構造物との衝突が誘因であることが知られています。このため丈夫なガードレールの端部には緩衝材の設置、緩衝斜材(フラップの逆のような感じ)の付設対処が、成されつつあります。今回の事故も、橋のガードレールが頑丈であることは周知の事実です。
この種の事故を運転者の責に「落とし込む」事は、道路施設責任論への回避技術かもしれません。
Ocean Radio <海ラジ>
2012年05月01日 23:20
>皮算用さん コメントありがとうございます。

 おっしゃるように、航空業界でも規制緩和(安全基準の切り下げ)が進み、パイロットの乗務もキツくなっています。日本のエアラインの場合、片道11時間までのフライトは交替ナシです(アメリカは8時間以上は交替要員が乗務)。
 到着地での休憩ですが、片道5~6時間を過ぎると1泊のステイが付くので次の乗務はおよそ24時間後、ということになります。日本発の場合、香港、上海あたりまでは日帰り。北米西海岸までは現地一泊、それ以遠は現地2泊となるパターンが基本のようですが、サンフランシスコやロサンゼルスまで9~10時間フライトして現地1泊はなかなかキツく、13~14時間コースのニューヨークの方が現地2泊できる分だけ楽、と実際に飛んでる方から聞いたことがあります。
 国内線の場合、1.5~2.0hrs程度のフライトを3レグほどこなしてステイ、次の乗務までは12~15時間程度は空くと聞いたことがありますが、格安運賃の某社はこの限りではないようです。
 国内線、国際線を問わずコクピットでの居眠りは発生しているらしいですが、自動操縦装置がしっかりしているので大事に至らないだけです。ただし、居眠りが原因と思われる事故も世界中でたまに起きています。
 羽田沖の件ですが、乗務のスタートそのものが前夜の福岡便でした。片道2時間弱の乗務を夜便、早朝便とこなして勤務終了であれば、それほどキツイ行程ではなかったのかな、とは思います。

 道路構造物の被害軽減対策の件は、初めて知りました。この点も、今後もっとクローズアップされるべき点ですね。確かに、緩衝材と思われる物体は高速道路ではよく見かけますね。問題の防音壁の手前にクッションのようなものがあれば、あそこまでの被害は出なかった可能性はありますね。

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