リスボンにて・・・欧州車はマニュアルが支配的であるという「謎」について

 ポルトガルに来ている。20年ぶりのヨーロッパ本土、見るモノ、体験することのすべてが新鮮で、書いておきたいことがいろいろあるが、とりあえずはクルマのハナシ。

 ヨーロッパでは、乗用車のほぼ全てがマニュアルシフト(MT)である・・・というハナシはずいぶん前から聞いていたが、正直半信半疑だった。世界的に、と言うよりも日米の自動車市場はほぼオートマ(AT)が支配しているのに、同じく自動車先進国であるヨーロッパでは未だにMTが主流、そんなことがあるものか・・・と。

 来て見て、納得。道ばたに停まっているクルマをつぶさに観察しているのだが、AT車は20~30台に1台、それもかなりの高級車のみ。ほかはすべてMT。フォルクスワーゲン・ゴルフやパサート、アウディやBMWなどにほんで見かける車種も、ほぼすべてがMT。日産マーチやホンダ・フィットなどのコンパクトカーは、100%マニュアルである。日本ではそもそもMTの設定がない車種がほとんどなのに、どうしたことか。

 一説によれば、と言うか、しばしばなされる説明は、AT車はMT車に較べて高価で燃費が悪く故障も多いため、質実剛健主義者の欧州人はMT車を好む、というものらしい。だが、これは事実に反すると思う。日本でも、そう思われていた時期があったからだ。少なくとも1980年代までは、AT車は金持ちか、クラッチ操作をやりたくない怠惰な人間が乗るものだと思われていた。しかし自動車メーカーが同じ車種、グレードでMTとATを併売するようになると、AT車に人気が集中し、メーカーはMT車の販売をやめてしまった。いま日本国内で売られているクルマでMTの設定が残っているのは、スポーツタイプなど趣味性の高い限られた車種のみだ。

 MTに較べて高価、燃費が悪いと言われても、ATの利便性を帳消しにできるほどのものではなかった、ということだ。また、量産効果と技術の進歩によって両者の差はほとんどなくなった。何せタクシー専用車種でさえ全てATなのだから、ATがMTに劣るというのであればたちまち業界からクレームが出るだろう。いま日本で、価格や省エネでのMTの優位性を言われたところで、なかなか信じてもらえない。運転免許もAT専用免許が導入され、いまや新規取得者の過半数はAT専用免許である。AT専用のほうが教習時間が短いし、日本では職業ドライバーかよほどのクルマ好きでない限り、MTを運転する機会などないからだ。だいたい、国内市場の車種の多くはMTの設定がないのだから、ATとMTを較べることも、もはやできない。

 アメリカでのAT車の普及はさらに早く、1950年代には3大メーカーがほとんどの車種にATを採用し、あっという間に広がった。前席に3人乗車が可能なコラムシフトが好まれたことが理由の一つと言われている。

 おそらく欧州では、市販車のほとんどがMT設定しかないのだろう。ATを併売したところでほとんど売れないからMTしか市場に出さない、そういうことなのだと思う。

 だがしかし、その理由として「MTがATより優れているから」というのは、いかにも後付けの理屈で、容易に同意はしがたい。少なくとも日米の自動車市場でこれだけAT車が普及している現状を見れば、MT優位説は正しくないと思う。

 欧州でこれだけMTが支配的なのには、誤ったMT優位説が広く信望されているか、そうでなければ、民族的、文化的な固有の風土があるからではないかと思う。それが何なのかは、よくわからない。自動車市場最大の謎と言ってもよいのではないだろうか。
【Ocean Radio@2015】





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