クルードラゴン・ドッキング成功~宇宙飛行も民間の時代へ

 アメリカで民間宇宙船クルードラゴンがISS(国際宇宙ステーション)へのドッキングに成功したというニュース、感想が2つある。

 1つ目は、有人宇宙船の開発を民間企業がやってのけたというのは、とてつもなくすごいことだ、ということ。それも、ロッキードやボーイングのような航空宇宙の名門大手ではなく(ボーイング案はコスト面でNASAに採用されなかった)、スペースXという2002年創業のベンチャー企業(創業者はテスラ自動車を立ち上げたイーロン・マスク氏)が成し遂げたというのは、驚くべきことだ。日本で言えば、三菱重工や川崎重工を尻目に楽天やインターステラテクノロジズ(大樹町でロケット打ち上げを行ってる会社)が有人宇宙船の開発をやってのけるようなものなのである。有人機と無人機では、要求される信頼性、安全性のレベルが桁違いであることは言うまでもない。資金力と技術開発力さえあれば、民間企業でも宇宙船を開発できる。宇宙飛行のノウハウが最高レベルの国家機密だった時代から変わり、技術の裾野はそこまで広がった。それが示された意味は大きい。
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 2つ目は、宇宙はやはり遠いな、ということ。そう思わせられる理由は、スペースシャトルの時代から打って変わり、先祖返りしたようなクルードラゴン(ならびに打ち上げロケットのファルコン9)のスタイルにある。スペースシャトルの最大の特徴は、翼を持った飛行機のような形態で、打ち上げ時とほぼ変わらない姿形のまま飛行場に着陸できることだった。SF小説では、飛行場のような宇宙港から飛行機のような宇宙船が発進し、宇宙と行き来する設定がしばしば登場する。少年時代、この手の小説や漫画をどれほど読んだことだろう。シャトルの登場は、SFが描く未来の世界の到来を感じさせたものだ。こういう宇宙船が、いつかの未来には一般の乗客を乗せて、ロケットのような垂直発進ではなく飛行機のような水平発進で、地球軌道のみならず月や火星に向けて飛び立つのではないだろうか。そんな予感すら抱いたものだ(実際は宇宙船の水平発進は無駄が多すぎて不可能なのだが)。ところがクルードラゴンは、飛行士が搭乗する先端のカプセル部分以外は多くが使い捨て(第一弾ロケットは回収して再利用される)で、地球帰還時も大西洋に着水したところを回収してもらうという、半世紀前のアポロ計画時代さながらの形態になっている。半世紀かけて、宇宙船の外形は初期化してしまったことに「宇宙の遠さ」を感じてしまうのである。
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 実はこれは、帰還時にしか使わない飛行機型の翼や帰還時には空っぽになる貨物室を持ったままの大型の宇宙船を宇宙と行き来させるのは、燃料や効率の点で壮大な無駄であった、というシャトル計画の反省によるものなのである。実際、宇宙から帰還したシャトル・オービタ(飛行士や貨物が乗る飛行機型の部分)を次の飛行に向けて補修するためには莫大な費用がかかっていたし、それでも打ち上げ時の衝撃から機体を守ることはできず、2003年のコロンビア号事故は起きてしまった。再利用によるコスト低減を目的に計画されたスペースシャトルだったが目論見は外れ、船体を大きくすればするほど、コストは上がり安全性は下がってしまった。2度の事故で14名が犠牲者を出したシャトル計画は、最も長く運用され(代替案を開発できなかった)、最も費用がかかり、最も多くの命を奪ったミッションとなってしまった。そのシャトルの幻影を断ち切らなければ宇宙開発に未来はない、そういうことだったのだろう。飛行機型の宇宙船で宇宙を往復というのは、タイムマシンと同じく、小説や映画の中の世界だけ、ということになるのではないだろうか。
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 もう一点、ISSの存在も指摘しておきたい。アメリカの新しい有人宇宙船があのように先祖返りした形になった理由として、ISSの完成も大きいのである。2000年に有人滞在が始まったISSは人間が地球軌道上で長期滞在が可能な施設で(現在の最高記録は340日)、シャトル計画当時はなかったものだ。スペースシャトルは、軌道上に人がある程度長期滞在して任務がこなせるようアポロやソユーズに比べると居住区画が大きく作られている。1回のミッションは1週間から10日程度で、最長で17日ものミッションを行ったこともある(STS-80、5名搭乗)。ところが今は、長期滞在が必要なミッションはISSでこなすことができるようになった。宇宙船の役割が地球上からISSまで人を輸送するだけでよければ、片道の搭乗時間は1日ていど(今回のミッションでは打ち上げからドッキングまで19時間5分)で済むから大きな居住区画も必要ない。2011年にシャトルが退役するとき、「ISSの完成とともにスペースシャトルは不要になった」と語っていた専門家がいたが、そういうことなのだ。クルードラゴンはシャトルと同じく最大7人が搭乗できるが、与圧区画は9.3m3と、シャトルの65.8m3の1/7程度でしかない。
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 ISSと往復するための軌道飛行であれば、もはやシャトルのような大型の宇宙船は必要とせず、民間が開発したロケットと小型宇宙船で十分。しかも飛行士1人あたりの費用は5500万ドル(約66億円)と、シャトルの3分の1だ(英「エコノミスト」報道)。コストが低ければ、多くの人を宇宙に送り出すことができ、さらに(特別な訓練を受けていない)一般人にも搭乗の機会が広がることも期待できる。スペースXは月への飛行が可能な宇宙船スターシップも開発中で、イーロン・マスク氏の最終目標は火星への有人飛行だそうだ。スペースXには世界中から優秀な技術者が集まり、ソフトウェアにおけるアジャイル開発の手法を導入することで、開発スピードは非常に速いのだという。

 シャトル計画の終了で停滞していたかに見えた有人宇宙飛行に、新たな未来が見えて来た。4~6週間後に予定される地球帰還、さらに野口聡一(JAXA宇宙飛行士)も搭乗予定という次のミッションが、楽しみだ。
【Ocean Radio@2020】


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